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東京高等裁判所 昭和31年(く)32号 決定 1956年7月20日

少年 N(昭和一一・二・一〇生)

抗告人 少年N

主文

本件抗告は之を棄却する。

理由

少年は、さきに非行により収容された○○○少年院を退院の後昭和三一年二月八日東京家庭裁判所の決定により東京保護観察所の保護観察を受け、内縁の妻C子の実父たるK方(東京都内所在)に逗留中右C子と共に無断右K方を出て実兄Fおよび実母Eの住居(栃木県○○○郡△△△町××○○○○番地所在)に到り、事業資金等と称して屡々金員を強要し、Fより之を拒絶されるや、同月一三日頃必要もないのに同家周辺数ヶ所に焚火して故意に同家屋に燃え移らせるが加き危険状態を起して脅迫的態度に出て、又、同年四月二日頃同所で実母Eと口論の揚句同人に鉄瓶を投げつけて、その前額部に負傷させる等の非行あり、而して少年は概して怠惰遊楽的な上に独断的で内省力に欠け、その性格環境等よりみて将来犯罪に至り又は刑罰法令に触れる行為をなす虞ありと認められるに拘らず、右母や実兄等の正当な監督に服しないのみならず他の近親縁者その他にも少年を委託して今後斯る性癖の矯正を与えることを期待し得るものは見出し難いこと原決定に摘示するとおりなるは宇都宮少年鑑別所作成の少年に対する昭和三一年五月七日附鑑別結果通知書、本件審判調書中保護者Fおよび同Eの各陳述記載、家庭裁判所調査官内田陸郎の作成にかかる少年に対する昭和三一年四月二四日附調査報告書その他本件記録上の諸資料によつて之を認めるに十分である。之に対し、少年の本件抗告申立理由の趣意は、少年の前記実兄Fに対する金員強要、焚火、実母Eに対する傷害等の事実の動機の正当性を種々力説するものであるが、それらは畢竟少年の前記の如き自己中心的主張に帰するもの多く、それらによるも特に少年の右諸所行を以て少年に責ない正当のものとして肯認すべき理由は見出し難い。

而して少年は東京都内に居住当時保護観察を受けた東京保護観察所長より東京家庭裁判所に対し犯罪者予防更生法第四二条第一項による通告を受けたものなることも記録上明らかである。従つて、原決定において右規定のほか、少年法第三条第一項第三号、第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項を適用して少年を二三歳を限度として特別少年院に送致する措置に出たのは正当であり、之を難ずる本件抗告は理由がない。

そこで少年法第三三条第一項により本件抗告は之を棄却することにして、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)

別紙(原審の保護処分決定)

主文及び理由

主文

少年を二三歳を限度として特別少年院に送致する。

理由

一、非行事実

少年は保護者の正当な監督に服さず、口論の上保護者のK方(東京都○○区××町△△丁目××××番地)を飛び出し栃木県○○○郡△△△町大字××○○○○番地に居住する実兄Fの許にその内妻C子と共に入り込み、実兄Fに対し金員を強要したり、同人方庭先の数個所に落葉や枯枝などを集めてこれに火を放つ等のいやがらせをなし、その性格、環境に照して将来罪を犯す虞があるものである。

二、適用法条

少年法第三条第一項第三号

三、主文掲記の保護処分に付した理由

少年は○○○少年院を退院後昭和三一年二月八日更に東京家庭裁判所の決定により東京保護観察所の保護観察を受け、その当時内縁の妻であつたC子の父K氏の許に引取られたのであるが、その後も素行が修らず無断で同家を出て、栃木県○○○郡△△△町××の実兄方に至り金員を強要し兄が応じないと放火するような態度を示したり母親に鉄ビンを投げつけて傷を負わせる等の非行を繰り返し一向に自分の態度を反省しようとしない。これに対し実母、兄等はこのままでは自分等の身体の安全も心配される程であるからという理由で収容を強く望んでおり、K氏もはじめ調査官の調査時は引取つてもよいような口振りであつたがその後同氏の妻との間に意見が分れ結局審判にあたつても出頭しない。他に社会資源として姉等が二、三居るのであるが、これらはいずれも少年と喧嘩してしまつたり、或は調査官の調査にも応ぜず審判にも出頭しない等で到底少年の補導を依託するに足るものは認められない。ところで少年の性格は宇都宮少年鑑別所作成の鑑別結果通知書記載のとおり(昭和三一年五月七日付)であるからこのまま社会に放置しておくことは少年自身の為にもならないと考えられるので、家庭裁判所調査官及び鑑別所の各意見(本件についての審判調書参照)を参酌したうえ犯罪者予防更生法第四二条少年法第二四条第一項第三号同審判規則第三七条第一項により主文のとおり決定する。

(尚少年に対しては先にこれを収容した○○○少年院より再度同少年院にこれを収容することはその教育上不適当である旨の申越があるからなるべく同少年院以外の特別少年院に収容することが望ましい。)

(昭和三一年五月七日 宇都宮家庭裁判所栃木支部 裁判官 関口享)

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